事務連絡「北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」の撤回を求める要請
文部科学大臣 永岡 桂子 様
2022年10月9日
図書館問題研究会
委員長 中沢 孝之
公共図書館、学校図書館の振興に日々お力添え賜り感謝いたします。
さて、さる8月30日に貴省が発出した事務連絡「北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」により、北朝鮮人権侵害問題啓発週間に向けて、公立図書館、学校図書館内での「拉致問題」関連資料の充実やテーマ展示の協力の依頼がありました。
全国の公共図書館では、今日的な課題として、LGBTQの人々や外国籍住民、先住民や障害のある人々など、様々なマイノリティや人権に関する資料を提供してきました。拉致問題に関する資料も同様に、この依頼が発出される前から図書館では提供されており、住民が拉致問題を知る一助となってきたと考えています。
図書館には「図書館の自由に関する宣言」が掲げられています。戦前・戦中に、図書館は「思想善導」機関として,国民の知る自由や、表現の自由、読書の自由を制限してきた歴史がありました。この反省に立って、二度と同じ過ちを繰り返さないよう、図書館は「基本的人権の一つとして知る自由をもつ国民に,資料と施設を提供することをもっとも重要な任務」として活動しています。
戦前・戦中に、図書館は国の政策に従い、住民を善導する機関として位置づけられており、何が重要で何を読むべきかを国が指し示すことが当然と考えられていました。拉致問題関連資料の充実を求める依頼は、無数に存在する人権問題の中で特に拉致問題について国が異例な形で協力を求めることであり、特定の問題の重要性を強調し、戦前・戦中のように住民の意識のあり様を国が統制することにつながりかねない危険なものと言わざるを得ません。また、特定主題の充実を国が求めることは、各図書館の資料収集の自律性への介入であり、「図書館の自由に関する宣言」における「資料収集の自由」を侵害するものです。
このように当該事務連絡は、「図書館の自由に関する宣言」の侵害であり、教育基本法第十六条の「不当な支配」に該当するおそれがあるものです。当該事務連絡の撤回を求めるとともに、今後このような要請を行わないことを求めます。