電子書籍サービス(電子図書館)の利用について、マイナンバーカードの取得を条件とすることに反対します
2024年3月4日
図書館問題研究会全国委員会
公共図書館が住民に対して電子書籍を貸し出す電子書籍サービス(電子図書館)を導入する自治体は、新型コロナウイルス感染症による図書館の閉館も相まって近年拡大しています。一方、導入に至っていない自治体の多くは、電子書籍サービスの予算確保が困難であることをその理由としてあげています(*1)。
総務省及びデジタル庁はマイナンバーカードの取得促進を推し進めており、マイナンバーカードを図書館カードとして利用できるようにする施策についても、補助金を講じ積極的な働きかけを行っています(*2)。このような中で、既存の図書館カードを用いずに、マイナンバーカードを用いた電子認証によって電子書籍サービスが利用できるシステムを導入する自治体も現れています。このスキームでは、デジタル田園都市国家構想交付金により自治体の負担なく電子書籍サービスが導入できることが、導入自治体にとってのメリットとなっていると考えられます。
2024年2月現在、3つの自治体が、マイナンバーカードによる電子認証機能を備えたアプリ(xID)による電子書籍サービスを導入しています。このうち2つの自治体(岐阜県美濃市及び茨城県五霞町)では、電子書籍サービスの利用登録ができるのはマイナンバーカードを保持した15歳以上の住民に限定しています。なお五霞町では、15歳未満の住民のうち小中学生についてはギガスクール端末経由で電子書籍サービスを利用することができるとしています。同様にxIDによる電子書籍サービスを導入している福島県昭和村では、xIDによらない利用登録が可能であり、マイナンバーカードの取得を利用登録の条件とはしていません。
電子書籍サービスを含む全ての図書館サービスについて、別の任意の行政手続を利用条件として課すことは、「誰一人取り残さないデジタル化」を目指す政府の方針とも整合しません。また、法の下の平等を定めた憲法14条、教育を受ける権利の平等を定めた憲法26条の理念に反し、ユニバーサルサービスとしての図書館サービスを毀損するものです。さらに、15歳未満の子どもの利用を一律に制限することは、およそ現代の公共図書館のサービスとして適切とは考えにくく、電子書籍サービスの事業目的も損なうものとなっています。
マイナンバーカードに関連する施策やデジタル田園都市国家構想交付金に関わる施策は、企画セクションや図書館の所管課などが取りまとめることも多いと思われますが、図書館現場の職員が全ての住民へのサービス提供の意義と必要性を主張することが必要です。
電子書籍サービスは、住民の図書館利用に関する物理的ハードルを下げ、また図書館利用に障害のある利用者にとっても有益であり、費用対効果を考慮しながら導入を検討することが各自治体・図書館に求められています。しかし、技術的には全住民を対象としたサービス提供が可能であるにも関わらず、安易にマイナンバーカードの取得等の利用条件を課すことは、公共図書館の存在意義やサービスへの信頼を揺るがす行為と言わざるを得ません。このような利用条件を課している自治体に対しては、その撤廃を求めるとともに、新たに導入を検討している自治体に対しては全ての住民をサービスの対象とするよう求めます。
1) 植村八潮・野口武悟・長谷川智信『電子図書館・電子書籍サービス調査報告2023』樹村房, 2024
2) 図書館問題研究会「「マイナンバーカード」を図書館カードとして使用することについて慎重な検討を求めるアピール」