11月号
目次/2020年11月号/みんなの図書館
NOVEMBER
2020
No.523
特集:日本図書館協会ガイドラインをめぐって
特集にあたって 編集部 3
ガイドラインへの意見、要望 中沢孝之 5/高柳有理子 7/鬼頭孝佳 8/利光朝子 10/図書館問題研究会 11/図書館問題研究会神奈川支部 13
来館者記録を収集しないよう要望する要望書県内図書館宛神奈川支部14
「利用者の秘密」をめぐって 宮崎正嗣 16
COVID-19がもたらした文化の非合理的萎縮、そしてあいトリとプロパガンダ政策 アライ=ヒロユキ 20
図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン 公益社団法人日本図書館協会 26
一般:
和歌山市民図書館は市民の図書館であり続けることができるか?─2020年6月新築移転し開館した和歌山市民図書館 稲垣房子 38
連載:
図書館の生態系─6 「アメリカ大手出版社対インターネットアーカイブ」訴訟がはじまった!! 山本順一 46
ほん・本・Book:
『課題解決のための専門図書館ガイドブック』 小廣早苗 57
『大学で学ぶゾンビ学』 高倉暁大 59
図問研のページ:
第7-10回常任委員会の記録 61
第3回全国委員会の記録 65
今月贈っていただいた資料 72
会員異動 72
編集後記 72
column: 図書館九条の会:
「ソノウソホント」又は、安倍内閣の日々 石川ゆたか 45
Crossword Puzzle; 434 37
特集にあたって
編集部
文責:微笑正凡
驚き以外の何ものでもなかった、日本図書館協会が公表した「図書館における新型コロナウィルス感染拡大予防ガイドライン」において、来館時に利用者名簿を作成するようにと書かれていたからだ。
「図書館に関する自由宣言」を否定することでもあり、にわかに信じがたいことだった。
政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」と新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」で示されたガイドライン作成の求めに応じて作成されたものだった。
5月14日、この日に様々な職種から同様なガイドラインが公表された。文部科学省のホームページには図書館だけではなく公民館や博物館のガイドラインへのリンクが張られた。
全国公民館連合会からもガイドラインが出されていたが、協会のと瓜二つだった。奇妙なことだった。博物館もやはり同じで、同じ文案をもとにそれぞれのガイドラインが作成されたのは、あきらかだった。
多くの図書館員から批判の声が上がっているという情報も入ってきた。ちょうど図問研常任委員会で次年度の重要討議課題の最終原稿をまとめている時だった。重要討議課題に急遽入れるべきかという議論のなか、要望書は別に作成し、重要討議課題とともに7月号に載せようということになった。急ぎ要望書を作成し、協会へ送るとともに関係団体、新聞社等に知らせた。
反応は早かった。中日新聞、NHKなど多くのマスコミが取り上げた。図書館の自由と感染防止に悩む図書館という構図だった。
協会に設置されている図書館の自由委員会は名簿作成には賛成はしていなかった。
協会は5月20日に「来館者名簿の作成」の運用に関する補足説明を公表した。名簿作成については各図書館の自主的な判断に任せるというものに変わっていた。しかし名簿が必要だという基本的な姿勢は変わっていなかった。
ガイドライン作成経緯の公表について、特集にも収録されているように高柳さんや図問研神奈川支部等からも要望が協会に出されている。
5月27日付(協会HP「お知らせ」一覧内)で「「図書館における新型コロナウィルス感染拡大予防ガイドライン」の作成経緯と作成過程」が公表された。簡単な作成日程と業務執行理事が原案を作成し理事会メンバー、関係する委員会として図書館政策企画委員会、図書館の自由委員会、公共図書館部会に働きかけたとあるだけだった。知りたいのは議論の過程だったが何も答えていなかった。
先に述べたが、図書館だけでなく公民館、博物館もガイドラインが酷似していて、明らかに同じ下敷き(原案)が使用されていることに対する疑問は解消されない。文中、文部科学省からの情報提供があったと述べられていることがこのことを示しているのかもしれないが、わからない。いずれにしても疑問は疑問のままだ。協会はこの件について明確に答えてほしい。
図書館は利用者の秘密を守る。信頼するに足る図書館であるための生命線である。
戦前の思想善導また思想弾圧にも加担した図書館の苦い経験と反省から、図書館に関する自由宣言は1954年に採択された。70年近い歳月が流れている。
新型コロナウイルス感染症拡大を持ってこれは戦争であるという人もいる。戦争だから国民の自由への制限はやむを得ないという考えも成り立つ。権力者は政治的判断により国民の生命財産を守ることを理由に自由に対する様々な制限を課すことはありうる。図書館は国や自治体の一機関であるから、命令には従うのは当然であるという議論も成り立つだろう。
しかし、考えてみよう。無批判、そして闇雲に権力に従ったために未曽有の人的物的そして文化的損害と悲劇を被った歴史的事実が私たちにはあるのだ。繰り返し言うが、その苦い経験を忘れてはならない。
だからわたしたちはどんなに重大な局面にぶつかっても最後は自分自身で考え判断していかなければならないのである。今回の協会の行動には自らに主体性があったとは思えない。背負ってきた歴史の重さが感じられない。大きな権力に小さな権力がただ従ったということだけが行動の端々に透けて見えるのである。
図書館の自由が絶対だとは言わない。しかし、図書館の自由は「絶対」であるといいうるだけの歴史的重みがあることも忘れてはならない。
図書館に関する自由宣言第3「図書館は利用者の秘密を守る」が現出するにあたって、どれだけの血が流れ、歴史的苦闘があったかをもう一度振り返ってみることがいま必要なのかもしれない。
今回の特集はガイドラインを掲載するとともに、図書館問題研究会や個々の図書館員から日本図書館協会に提出された要望書を対置した内容になっている。図書館関係以外からは中日新聞記者の宮崎正嗣氏に原稿をいただいている。
また、権力に取り込まれる日本の文化状況について、美術・文化批評の観点からアライ=ヒロユキ氏の原稿を合わせて掲載する。
みんなの図書館編集部:明石浩/今井つかさ/片野裕嗣/川越峰子/小廣早苗/西河内靖泰/微笑正凡/藤巻幸子/二橋雅子/松本芳樹
図書館問題研究会
http://tomonken.sakura.ne.jp/tomonken/
メール tmk55@tomonken.sakura.ne.jp