図書館の所管に係る要望書(2018.8.6)
2018年8月6日
文部科学大臣 林芳正様
中央教育審議会会長 北山禎介様
図書館問題研究会委員長 中沢孝之
図書館の所管に係る要望書
図書館問題研究会は、図書館の発展を願う図書館員や研究者、住民で組織する個人加盟の団体です。
私たちは図書館を教育委員会から首長部局に移管することに反対します。
図書館は教育機関です。成人の学びは、政治的な内容も含むが故に、独立性が確保される必要があります。教育行政は政治からの独立性を確保することによって、個人の学びや、思想と表現の自由を守り、政治の介入を阻むことができます。
図書館を首長部局に移管すれば、例えば住民が自治体の施策について学ぼうとする際、その自治体の施策の方針に反する内容の資料の提供制限が危惧されます。憲法に謳われている国民の権利「知る自由」を守る図書館の重要な役割が阻害されかねません。
実際、資料提供への制限については2012年には『はだしのゲン』、2015年には『絶歌』の収集及び提供について首長等による介入や図書館における自主規制が問題となりました。図書館の首長部局への移管がすすめば、特定の資料の提供が自治体の意向を優先して制限されてしまう可能性が高まります。
首長部局への移管のメリットとして、「予算獲得」や「他部局との連携の容易さ」が挙げられていますが、「地域振興を目的とする図書館事業の調査」(日本図書館協会 2016年)によれば、回答のあった1049自治体の47%(497自治体)で図書館を活用した地域振興事業を実施していることがわかりました。
教育委員会の所管にある図書館でも首長部局との連携事業は十分に可能なのです。また、教育委員会の所管で、適切な予算措置を行ってその活動が高く評価されている図書館は全国に数多くあります。
中央教育審議会生涯学習分科会のまとめ(「公立社会教育施設の所管の在り方等に関する生涯学習分科会における審議のまとめ(案)」2018年7月配布資料)の中でも、政治的中立性及び継続性・安定性の確保、住民の意向の反映、学校教育との連携に関して、図書館協議会等の協議会や教育委員会が関与することで担保できることが述べられており、その法制化のプロセス等については詳細に検討する必要があると指摘しています。法体系上の整合性や、機構関係があいまいです。担保措置が講じられることを条件に地方公共団体が移管できるとすることに大いに危惧を感じます。
図書館の働きは、地域の資料の継承や、人を育てる営為を含み、永続的に地域社会に資する活動です。こうした教育活動は、学校教育と同様に教育委員会の元で行なわれるべきだと考えます。法の理念を尊重し、図書館が思想表現の自由、知る自由を守る役割を十分に発揮できる機構の維持を求めます。