「『かえるの天神さん』の回収について」 広島支部・高野淳 要項

2024年2月19日

「『かえるの天神さん』の回収について」 広島支部・高野淳
絵本『かえるの天神さん』(日本傑作絵本シリーズ、日野十成・文、斎藤隆夫・絵、福音館書店)は、2020年1月8日付で発行された。『かえるの平家ものがたり』(2002)、『かえるの竹取ものがたり』(2014)に続く、「かえるの絵巻シリーズ」の3作目である。道真の生涯や天神信仰の由来が描かれた国宝「北野天神縁起絵巻」を元にした絵本であり、登場人物はカエルの姿となっている。産経新聞の書評「『かえるの天神さん』「神様」の復讐と鎮魂」(2020.2.16)
https://www.sankei.com/article/20200216-6EI3VX56VJ43EZD3PL3OM3PA4/
では、美しい日本画で生き生きと平安の都が蘇る、天神様の一大スペクタクル。と紹介されている。
本書について、福音館書店は2020年3月11日付のホームページで、お詫びとお知らせとして、販売の中止と回収を公表した。
https://www.fukuinkan.co.jp/oshirase/detail.php?id=428
理由は「編集上の確認作業において瑕疵が」あったとしており、このことについて照会しても、それ以上は言えない、とのことである。回収の理由としては、菅原道真をかえるにたとえたことで、北野天満宮の代表者から申し入れがあった、ということのようである。
図書館での対応は、日本図書館協会図書館の自由委員会が公表している「出版者から回収・差替えの要求があったとき」
https://www.jla.or.jp/committees/jiyu/tabid/660/Default.aspx
にあるように、いったん出版されたものについて、それが出版されたという事実を記録するという図書館としての社会的・歴史的役割に即して、回収を要求された版を保持することが原則となっており、回収の公表時には、公共図書館は回収に応じないとみられていた。
ジャーナリストの日向咲嗣は、ビジネスジャーナル2023.12.26「和歌山市ツタヤ図書館、所在不明本が急増…1度に7千冊を除籍、CCC運営で」 https://biz-journal.jp/2023/12/post_367305.html で、『かえるの天神さん』が「返本」されていることを明らかにした。日向は、この取材の過程で、図友連の会員に「公共図書館が回収に応じることがあるのか」と照会していた。この時点でも、公共図書館は回収には応じないと思われていた。筆者が調べたところ、東広島市立図書館には『かえるの天神さん』は所蔵されておらず、規模や収集状況から、未所蔵であることは不自然であった、このため、広島県内の図書館の所蔵状況を確認したところ、他の同種の本と
比べて、所蔵館は少なく、所蔵している館でも、閉架としているところがほとんどであった。
全国の公共図書館に対象を広げて確認したところ、やはり同様の傾向を示し、回収に応じた館は少なくないと思われる。筆者が福音館書店に照会したところ、回収のお願いは強制ではないので、回収に応じるかどうかは任意であり、図書館から戻すべきなのかと問い合わせがあったときは、戻さないと判断されてもしかたがないと回答していた、とのことであった。
広島県内で未所蔵の公共図書館に照会したところ、東広島市立図書館(指定管理)、はつかいち市民図書館(直営)、市立竹原書院図書館(当時直営)から、回収に応じたとの回答があった。特に、東広島市立図書館は、当初は生涯学習課が承認して回収に応じたとし
ていたが、再度の照会に対し、回収に応じた後に生涯学習課に報告した、と事実上回答を変更した。あとの2館は直営であるが、はつかいち市民図書館は、ほとんどが非正規の職員であり、市立竹原書院図書館は、その後指定管理となっている。専門性が足りない図書館が回収に応じているという印象がある。また、他県では、所蔵のうち1冊を残して、後は全て回収に応じたという事例もあった。ここまで、ごく一部の調査であるが、図書館が回収に応じている実態が確認できた。私たちは、図書館は回収に応じないと考えていたが、常識が覆されてきている。
図書館の自由が危うくなっている。

Posted by tmk