5月号

目次/2019年5月号/みんなの図書館
MAY
2019
No.505

特集:AYA世代/働く世代への健康・医療情報サービス
特集にあたって 石井保志 1
AYA(あや)世代の情報について 岸田徹 5
働く世代への健康・医療情報サービス─患者からみた司書への期待 桜井なおみ 14
利用者と医療情報をつなぐ─瀬戸内市民図書館もみわ広場の取り組み 横山ひろみ 20
見えない障害を知っていますか?─脳損傷による高次脳機能障害と失語症 西村紀子 26

一般:
真説・2018年の「図書館プロレス」 藤本昌一 32
「司書では食っていけない」って、誰が決めた。─大学図書館で働く非正規司書のパワハラ問題 寺下由美子 42
大人の「自由研究」、「調べ学習」とは何か─神奈川県立図書館の『大人の自由研究応援ガイド』から考える 三村敦美 54

各地のたより:
山口発=周南市立徳山駅前図書館の開館1周年とTカード問題 藤村聡 69
長野発=学図研、雑誌『メロディ』に申し入れ 学校図書館問題研究会 70

図問研のページ:
著作権法におけるダウンロード違法化の拡大に反対します(声明) 72
第45回研究集会in宇佐参加レポート 立川幸平 73
第7-9回常任委員会の記録 75
今月贈っていただいた資料 79
会員異動 80
編集後記 80

お知らせ:
2019図書館問題研究会全国大会プレ学習会「飛ばせ千葉! 千葉県図書館八×9館伝!」 66

column: 図書館九条の会:
皇位継承と憲法 大澤正雄 68

Crossword Puzzle; 417 31

特集にあたって
文責:
健康情報棚プロジェクト
石井保志(いしい・やすし)
公共図書館の健康・医療情報サービスは、2004年以降から実に様々なサービスが行われてきました。2019年3月現在、図書館で行われている健康・医療情報サービスは、「小児」や「高齢者」、「介護」を対象としたサービスへの拡がりが見られます。さらに数年前から、がん情報や認知症に焦点をあてた情報提供など、バリエーションが増加しつつあります。
このように進化しつつある健康・医療情報サービスですが、例えばがん患者の支援は、15歳~39歳は見過ごされがちな傾向にあります。この15歳~39歳の就学や働く世代のことをAYA世代(あや・せだい)と呼んでいます。このAYA世代は思春期や結婚、就労など様々な課題が複合的にあり、それゆえ社会的な理解や支援はまだまだ十分とはいえません。当然、AYA世代の方やそのご家族への情報提供も十分でなく、学校や職場でAYA世代の皆さんに対する理解も十分ではないようです。また働く世代にとっては、病気や治療の情報に加え、働き続けることができるか、周囲の人へカミングアウトするべきかなど多くの悩みが降ってきます。
「このままでいいのか」、このように感じる先輩患者の中から、声を上げ、行動に移した方たちがいます。そして、それらの声や行動が、まさしく今、医療政策や就学・就労の現場に反映されつつあります。AYA世代や働く世代の患者さんにとって、学校や職場に気がねすることなく治療を続け、体調に合わせて通学・就労ができる文化・環境が徐々に普及し始めているのです。今回の特集ではその動向をご紹介し、働く世代やAYA世代の患者について、まず図書館員が知ることから始める機会としました。そして図書館の従来の障害者サービスでは想定されにくかった「見えない障害」についても知っていただき、また図書館と利用者を「書架サイン」でつなぐ瀬戸内市民図書館の事例も参考にしていただきたいと思います。それぞれの執筆者はまさしく第一線で声をあげ実践されている方々ばかりです。お忙しい中、ご執筆いただきましたことにお礼を申し上げます。

今回の特集は、病気を告知された衝撃のその後がテーマであると言えます。がんや難病、障害を告知された直後は、どのような病気や障害であるか、その正体を何にもまして知りたい、調べたいことでしょう。そして、その病気や障害が生活にどのように影響するのか、家族にどのように影響するのかに考えが及びます。働く世代にとっては、職場はどうするのか、休職中の仕事は、引き継ぎは、復職後は今まで通りにいくのか、など病気と密接にかかわりながら即座に回答できないことばかりです。告知されたことを友人や職場に、伝えるべきかどうか、いつ伝えるべきか、どう伝えるべきかなど、果たして正解はあるのでしょうか。

図書館の健康・医療情報サービスは、病気や治療に対して「最新で正確な医療情報」を提供することを目標にするとともに、直接的な回答がない、悩みながら相談しながらたどり着くための情報提供があって良い思います。図書館の健康・医療情報サービスでは科学的根拠(エビデンス)のある情報の提供に目を奪われがちだった中、今では患者さんの精神的支援もサポートする方へも情報提供を行う図書館がでてきています。病気と就学・就労について、個人的なこと、精神的なことと“医療情報の外側”に位置付けるのではなく、図書館では健康・医療情報サービスの内側にあることとそろそろ定義しても良いのでないでしょうか。
病気と密接に関わりながら医療情報ではない、健康情報でもない、“病気と生活に役立つ情報”も健康・医療情報サービスの範疇にすべきなのかは、今後の図書館の実践次第です。

さて、図書館が利用者ニーズに沿った情報提供に向けた努力をする一方で、同時に、図書館という職場の環境が“患者である図書館員”にもやさしい環境であるかどうか考える機会にもなってほしいと思います。ご自分の職場に、もし患者さんでもある方がいらっしゃったら働きやすい環境になっていますか。もしくはカミングアウトしていない方がいるかもしれないし、カミングアウトを憚る雰囲気や職場の理解不足は何かを考えてみることも大切です。今後、職場に患者さんになる方がいるかもしれない、自分が患者さんになるかもしれない、そのような内側からのアプローチから健康・医療情報サービスを見直してみるきっかけとなる特集となれば幸いです。

この「特集にあたって」を読み飛ばした方、次の用語説明だけはお目通しください。言葉を知っていただくだけで本特集の目的は達成されたと考えています。

「AYA(あや)世代」とは
英語の「思春期と若年成人(Adolescentand Young Adult)の頭文字からつくられたことばで、10代後半から30代の人たちをさします。今、この世代の患者をどう支援するかが課題となっており、「第3期がん対策推進基本計画」においてAYA世代がん医療の充実を求めています。
AYA世代の定義は様々あるそうですが、『AYA世代がんサポートガイド』(金原出版:2018年)では“「がんの治療成績改善が不十分であり、生殖年齢であり、介護保険の対象でない15歳から39歳まで」を広義のAYA世代”としています(注1)。同書では、AYA世代の特徴は、「思春期・若年成人世代は、生物学的、精神的、社会的に大きな変化を遂げる時期であり、これら3つの要素がさまざまで発育・成長するために、個別性の高い集団といえる。AYA世代の特徴をとらえ、理解し対応しようと歩み寄っても、個々に異なる課題に直面させられるために、大人にとっては近寄りがたい存在である」と解説しています。また「AYA世代は、がんの罹患および死亡率が最も低い世代であり、がん対策においてこれまで取り組まれていない対象であった」とのことです(注2)。

(注1)平成27-29年度厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」班,堀部敬三.AYA世代がんサポートガイド:医療従事者が知っておきたい,金原出版,2018,132pp.
(注2)同上,p.ⅲ

特集の原稿に加え、執筆者の方々が関係する団体・機関のホームページを紹介します。誌面ではお伝えしきれない情報もたくさん掲載されています。ぜひご覧ください。

[特集執筆者の関連ホームページ]
キャンサー・ソリューションズ株式会社 URL:http://www.cansol.jp/index.html
NPO法人がんノート https://gannote.com/
NPO法人Reジョブ大阪 https://www.re-job-osaka.org/
瀬戸内市民図書館ホームページ https://lib.city.setouchi.lg.jp/

みんなの図書館編集部:明石浩/片野裕嗣/川越峰子/子安伸枝/西河内靖泰/微笑正凡/藤巻幸子/二橋雅子/松本芳樹
図書館問題研究会
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Posted by tmk